ゴードンカンファレンス2011
「Stress Proteins in Growth, Development & Disease」
http://www.grc.org/programs.aspx?year=2011&program=stressprot
2011年7月17日から22日まで、イタリアトスカーナ州バルガで開催されたゴードンカンファレンス「Stress Proteins in Growth, Development & Disease」に、医化学分野から中井教授、藤本講師、そして私林田が参加した。この学会はストレス応答と、それに関連した疾患や個体発生について研究する世界中の研究者が一堂に会して行われるものであり、各研究者が未発表のデータを持ち寄って熱い議論を交わすカンファレンスである。今回も、「蛋白質のミスフォールディングに対する防御機構」「ユビキチンープロテアソーム系へのストレス負荷」などの計9セッションが行われた。
そのうちの1セッションである「老化、発生、および疾患におけるストレスによる転写活性化 (Stress-Activated Transcription in Aging, Development and Disease) 」においては、中井教授が「哺乳類熱ショック転写因子HSF1を介した新たなクロマチン弛緩機構 (A new mechanism of mammalian HSF1-mediated chromatin opening) 」との演題で招待講演を行った。遺伝子発現が行われるには、それに先だってプロモーター上のヌクレオソームが除去され、その開いた空間に転写を活性化する分子群が複合体を形成し、転写が開始される。熱ショック応答については、ショウジョウバエにおいて、GAGA因子と呼ばれるDNA結合因子がプロモーターに結合することが熱ショック応答に必須であることが分かっていたが、哺乳類においてはどのような機構が存在するのか全く明らかになっていなかった。講演において中井教授は、一本鎖DNA結合蛋白質であるRPA (replication factor A) が哺乳類の熱ショック応答に必須であることを世界で初めて示し、RPAの発現を抑制するとHSF1の結合も抑制されること、標的遺伝子である熱ショック蛋白質Hsp70の発現も減少することを明らかにしたほか、RPAの発現を抑制された細胞では温熱ストレス下での細胞死が増加すること、ポリグルタミン蛋白質の凝集体形成が増加するなど、HSF1-RPAの複合体形成が、哺乳類細胞の恒常性においてきわめて重要であることを述べた。この講演は、これまで不明であった哺乳類における熱ショック応答の機構に全く新しい視点を与えるもので、フロアからは多くの質問が相次いだ。
カンファレンスは「ストレス蛋白質を標的にした創薬の進展」のセッションで幕を閉じた。どの演題も、各研究者が初めて公表するデータを基にした熱い議論が繰り広げられ、研究を志す者ならば、誰もが参加したいと思わされるような学会であった。
(林田直樹)
2011年7月17日から21日まで、イタリアのルッカでゴードンカンファレンス「Stress Proteins in Growth, Development & Disease」が開催された。
今回の学会で、林田先生の「熱ショック転写因子HSF2は蛋白質ホメオスタシスに必要である」というタイトルがトピックスの口頭発表に採択された。HSF2は、発見されてから20年もの間、個体発生に関与していると考えられていた因子である。発表では、HSF2は、発熱レベルの温熱ストレスに曝すと、三量体形成やDNA結合活性が増強することを示した。さらに、マウス胎児線維芽細胞(MEF)において、HSF2がPolyQ凝集体形成を抑制し、またHSF2欠損によりR6/2ハンチントン病モデルマウスの脳神経細胞のpolyQ凝集体形成が亢進することを明らかにした。HSF2欠損のMEF細胞とマウス脳と筋肉で野生型に比べ、蛋白質分解に関与するaB-crystallinの発現低下が見られ、この遺伝子をHSF2欠損細胞に戻すことで凝集体の形成が抑制することが分かった。今回の発表で、HSPsの発現とは無関係に、HSF2が蛋白質ホメオスタシスの維持に極めて重要な役割を担っていることをはじめて示した。発表後には、John Lisらから質疑があり、HSF2の新たな機能について大きな関心が持たれ、今後の新しいnon-HSP経路の解明が期待される。
(藤本充章)